フーチの源流を探して台湾の離島・澎湖島へ飛んでみた話。(その3)
このシリーズを書き始めてから知ったんですけども、宜蘭の蘭陽博物館で扶鸞の特別展を開催していたみたいです・・・・。期間はなんと、昨年の12月30日から先月の4日までという!ガーン!
打ちひしがれなう、な、ハヌルです。
知ってたら行ったのに・・・(涙)
この特別展のサイトによると、扶鸞の由来には前回書いたものの他に、孔子が関係している説があるようで、
ある時、孔子は鸞が砂の上に嘴で文字を書いているのを見、天意が伝えられるのを見た。しかし鸞はいつも来て疑問に答えてくれるわけではないので、孔子と弟子は鸞の代りとして木筆を用いるようになった
というような内容でした。
目次
♡フーチの源流を探して台湾の離島・澎湖島へ飛んでみた話。(その1)
♡ フーチの源流を探して台湾の離島・澎湖島へ飛んでみた話。(その2)※動画有
今回⇒フーチの源流を探して台湾の離島・澎湖島へ飛んでみた話。(その3)
中国から渡ってきた扶鸞
孔子という文字を見て、ん?と気づいた方はご明察。現在の台湾で行われている扶鸞へとつながるその始まりは中国です。現代では、紫姑神信仰が源流のひとつではないかと考えられています。
紫姑神は特に中国の南部で信仰されている厠神。伝説では、生前ある男の第二夫人であったものの、正妻に冷たく当たられ汚れ仕事ばかりさせられる事を苦にし、元宵節(1月15日)に自ら命を断った女性とされています。(異説あり)亡くなった女性の霊は予知を行う霊であったので、やがて神として祀られるようになったそうです。(異説ry)
卜紫姑から善堂の出現までの流れ
元宵節に行われていた迎紫姑の様子
紫姑を招き寄せる依代には箕の他に、笠、竹籠、箒、箸など身近な道具が使われる。香港には今でも箕を使って扶鸞を行う道教団体がある。
(中略)
金蘭観は、元々広東省の潮州からの出身者によって創立された。民国時代の民俗学者チャオ・ウェイパンの調査によれば、潮州は、「藍姑」「観箸神」ー籠や箸などの道具を依代として神仙を降ろすーといった遊戯が、子供たちの間で盛んに行われていた地域である。
(中略)
南宋の洪邁撰「夷堅志」巻四十二には「(紫姑仙とは))世間ではただ箕に筆を挿し、二人でこれを支え、沙に字を書く」とあり、現代香港の金蘭観という扶鸞結社で行われている扶鸞とほぼ同じやりかたが、当時も行われていたことがわかる。
志賀市子(中国のこっくりさん―扶鸞信仰と華人社会 )
ここに出てくる藍姑は広東、福建、台湾の鹿港の客家人達の間で信仰されている女神のことでしょう。中国でも場所によって紫姑も藍姑も中秋節に祭祀を行って予知を聞く地方があり、儒教の三元節や農産についての信仰、または太陽信仰、祖霊崇拝などなど・・習合があったのではないかという気配をうっすら感じさせますね。笠、竹籠、箒、箸などが使われていた所から、支配階級ではなく農民や一般の民衆の間で行われてきた習俗であることも伺えます。
黄蘊の「近代中国の扶鸞結社―徳教からの考察」には、そのような民間信仰が、やがて知識層へと広がり、木筆によって降ろされた神の言葉が書物となり結社化が行われていった経緯や、世の中が大きく動いていった流れがわかりやすく書かれていますので、少し引用してみましょう。(下線は全て私による)
前述のように、扶鸞あるいは扶乩は、占卜の一種の習俗に由来するものである。それが文 字を媒介にして、神託を得る方法として確立したのは宋代においてであった。信仰の担い手もそれまで の女性・子供から文人官僚へと移行した。なお、扶鸞と道教経典との結びつきは従来深く、明清以後に 形成された道教の諸経典・諸宗派には扶鸞を契機としたものも少なくない。明清時代に、扶鸞は、科挙 試験の問題を占う知識人層を始め、広範な社会階層に浸透した11)。
https://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20181004163501.pdf?id=ART0009678973
喚醒堂鸞稿簿 臺灣扶鸞文化特展
さらに重要なのは、明末清初期に扶鸞が盛行し、儒教的教訓を集めた乩示(神のメッセージ)文集、 いわゆる「鸞書」(扶鸞を介して得られた善書)が誕生したことである。これまでの善書の性格に比べる と、宗教色が濃くなるという変化をみせた。また、清末の現象として、扶鸞が王朝教化の儀礼である宣 講と結びつき、宣講の場は、扶鸞により神意が記録される場となった5)。こうして民間レベルにおいて、 宗教感情が高まり、それが道徳教化と相互結合する形をもって、時代の新たな流れを作り出しつつあっ た。その流れの端的な形態は、後述する扶鸞結社ブームにほかならない。
(同上)
善書
清末の救劫善書は、劫を回避 する効果的な手段として、個人が善を積み重ねていくだけでなく、組織的に善を実践し、人を善に導く 場として「善堂」を設立することを提唱していた。こうした神々の乩示が人々を促す原動力となって、 善堂、善社などの扶鸞結社設立のブームが生じたのである。例えば、四川では、同治 5 年(1866)達県 五霊山において、関帝の乩示をきっかけに「十全会」という慈善福祉組織が地域エリートによって創設 され、その組織が清末に至り四川東部地域を中心に増殖するに至った22)。広東地域では、1894年春に広東 から香港へと拡大したペスト流行が扶鸞結社興隆の最大の契機だったとされる。猛威をふるったペスト 感染の拡大に対して、人々は善堂、廟や県公署など様々な場所で扶鸞儀礼を行い、神々に救いを求めた。 この時期の扶鸞儀礼をきっかけに善堂の設立に至るものが少なくなく、現在まで存続している団体もあ る23)。
(同上)
このような善堂の登場してくる背景についてには、中国で長く信じられてきた「末劫」というもの存在は無視できないでしょう。「末劫」について、非常に簡単にザックリ言うならば、
(1)この世界に災難と災害が蔓延する
(2)それによって世界中の殆どの人々が死ぬ
(3)一部の選ばれた人のみが生き残る
という世界の終末のことで、まるでかつてのノストラダムスの予言や、一時期ブームになったアセンションを思い出すような内容です。(アセンションはちょっと違うね。とはいえ、そういう終末とミレニアムの到来みたいな感じで話してた方もいたんですよ)
それらが現実のすぐ真横に存在するかの如く、19世紀から20世紀にかけての中国では、ペストの流行による他国からの差別や圧迫などから社会情勢に対する不安が増大していました。
19世紀末、中国を起源とするペストが世界中にひろがった。これは、雲南省で1855年に大流行した腺ペストを起源とするものであり、1894年(明治27年)の香港での大流行をきっかけとして世界的に拡大した。
(中略)
このときの中国発の腺ペストは、20世紀初頭、中国の東部沿岸地域や台湾、日本、ハワイ諸島をはじめ、さらにアメリカ合衆国、東南アジアから南アジアの各地にも広がった[注釈 2]。ペストの世界的な広がりの背景にあったのは、植民地主義の展開のもとでなされた交通体系の整備や商品流通の活性化、人間の移動などにより互いに各地が緊密な関係をもつにいたったことがあげられる[17]。その一方で、感染症の有無によって「清潔」「不潔」の観念が生じ、また、その観念が一般化して、中国人に対する差別的な検疫や入国制限などもおこなわれた[17]。
(中略)
1910年から翌1911年にかけては、清朝末期の満州で肺ペストが流行した。ロシア帝国と日本は、ペスト対策の実施を口実として満州進出の拡大を企図する
更には、私達日本人も学校の歴史の授業で習うような大事件が次から次へと起こってきます。
太平天国の乱(1851年)
義和団の乱(1900年)
近世から近代へと大きく世界がうねる中、日本では江戸時代が終わり、ヨーロッパでは産業革命が起こり、中国のみならず各国で変革と動乱の時が訪れていました。そんな中、富裕層や知的階級の人々は扶鸞結社を各地に創設していきます。そして関帝や媽祖、呂祖、済公、孔子、釈迦、観音etc.etc,と様々な神明や神仙の言葉をまとめた善書を手に、民衆の道徳心、倫理観を向上させる教育を行い、慈善活動を行い、時に社会活動を行うことによって「末劫」を回避、または、生き残ろうとしていったのでしょう。(今回はそんな感じのザックリ理解で!ココらへんは、ほんとに深い話なので・・)
この結社は善堂と呼ばれる集団で、市中に溢れかえっていたペストによる死者を集めて埋葬したり、治療を行ったりしていました。出口王仁三郎と親交が深かった紅卍会もそのような結社が発展したものです。
ザックリで割愛した様々な歴史的な話等が興味ある方には、この本がおすすめ。
そしてそのような動乱の時代に、台湾と扶鸞の関係が始まります。(おまたせしました・・・ようやく話が本題に入れます。)
それは、当時台湾でも問題になっていたある事がきっかけだったのです・・・・。
随分、日本のスピのフーチと・・・・・雰囲気違う
おそらく「フーチは振り子の占いだよね」という感じで思ってらっしゃる方が多いかなと思うんですが、私の中では、日本のスピで出てくるフーチと扶鸞との距離って結構あると思うんです。良い悪いの話では無いんですけども。
現代でも扶鸞は行われています。
そしてインターネットで鸞文の発表もされています。決して、20世紀とともに消え去った過去の遺物・・というわけではまったくありません。そういう現実と、カタカナで書かれるフーチの持つ、そこはかとない軽さが、私の中ではどうも一致してこないということなのです。
というところで、その4に続きます。
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